有能なプロジェクトマネージャとして評判の高かったイバン・イリニツキー氏も、2002年フォルテス社を設立後、会社経営者としては試行錯誤の毎日だ。 イバン氏は1977年生まれ、ノボシビルスク市出身。ノボシビルスク総合大学の数理・機械学部卒業後、98年ノボソフト社に入社、システム開発を担当した。2000年からASN.1を使った通信システム開発のプロジェクトマネージャとなり、通信機器やデータ交換に使われるソフトウエアの開発で頭角を現した。 ノボソフト社は当時、社員200名以上を擁し、海外向けソフトウエア開発では欧米のみならず日本にもその名が知られるほど実績が多く成功した企業だった。しかしアメリカのITバブル崩壊のあおりをうけて失速、経営者の失策もあり、トップレベルの管理者が離反して新事業を立ち上げる動きが活発化した。 イバン氏が新会社フォルテス社を立ち上げたとき、ノボソフトから80名もの社員がフォルテス社に移籍し、更に2004年にはノボソフトの日本営業部を含む20名近くがイバン氏の会社に移った。 |
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社員はもちろん、海外の既存クライアントが一番望んでいることは、ロシアの安定、ロシアパートナー企業の安定だ。進行中のプロジェクトがフォルテスに移ることで混乱や中断があっては困る。社員の移籍に際し、イバン氏が最も注力したのは、前会社の社長や管理者との話し合いだ。個々の利益のためでなく、社員や顧客のため、総じてロシアに対する信頼を失わないように、慎重に、忍耐強く交渉した。イバン氏は「人脈が広く、かつ個々の信頼関係が強い」と評されているが、「昨日の敵は今日の友」とする彼の手腕によるものだろう。 ロシアでも最近「顧客満足」という言葉がよく使われるが、現実には「会社第一、顧客第二」が本音だ。自己犠牲を強いてでも顧客満足を追及するのは、顧客とのつながりを維持することで将来的に利益が見込まれる場合に限る。ソフトウエアの海外発注の場合、「低コスト、スピード、技術」などが見込まれて単発で発注される場合が多く、次回以降に元を取る、という長期的関係を築くのがなかなかむずかしい。
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しかしイバン氏は、時には自己犠牲(投資)をしてでも、顧客満足を追及するべきだ、という考えをもっている。そしてこれは、日本市場をターゲットとした同社の戦略でもある。 フォルテス社は2003年春から、日本営業をスタートした。これまでNTT関連企業向け通信プログラムの開発、デジタルカメラのドライバー開発、電子カルテシステム、企業のWebサイト開発など、低コスト、スピード、技術を活かしたプロジェクトを成功させている。 日ロ双方向の技術翻訳ができる技術者、メールや口頭での交渉が可能な通訳、更に日本人SEのサポートを受けて、日本からの依頼や発注に対しては完全日本語対応を実現している。 |
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しかし難しいのは言葉ではなく、日ロのメンタリティーの違いだ。日本企業は自ら仕様を明確にできず「おまかせ仕様」だが、完成間近になって様々な修正要求を出してくる。変更には時間がかかるが納期は延ばせない。「正念場」「一生懸命」「頑張って」「ダメ元で」「とにかく」「明日まで、月曜日まで(=深夜、週末働いて)」などロシア人には理解できない言葉がメールで届く。通訳と日本人SEが懸命に説明するが(不可能を可能とする神業があるのか…)と謎は深まるばかり。切腹、神風特攻隊、過労死など、人とも思えぬ日本人の歴史がロシア人自身にも及ぼうとしている。理系のロシア人技術者に日本人のメンタリティーを説明するのは非常に難しい。 ロシア製品の品質は総じて粗悪だが、ソフトウエア開発に関する限り、ロシア人技術者は品質に非常にこだわる。中小企業向けのソフトウエア開発でも、SunやMicrosoftの製品開発並の品質を実現しようとすることさえある。 一方日本では、作業量とは全く無関係に予算やスケジュールが決められることもある。品質より納期やコストを優先させる。納期までに「とにかく」動くものを作り、品質の作りこみは、納品後のメンテナンス契約で行う、とする考えもある。 フォルテス社の日本語要員と日本人SEは、不可解な日本人の習慣を自覚し、時には恥ずかしい思いにとらわれながらも、懸命に日ロの妥協点をさぐっている。 「顧客満足のために、最大限の努力をしましょう。やってみてダメだったら『ごめんなさい』と謝りましょう。日本では謝る人に対しては寛容の精神を発揮することが美徳とされているから。」などと言ってもロシアでは通じない。ロシアでは逆に、謝った方が過失を認めたことになり、大変悪い立場に置かれるのだから。 品質を落とさずに、いかに納期やコストを守り顧客満足を獲得するか。開発経験豊富なロシア人技術者にとっても、日本からの仕事は試練の場だが、フォルテス社員には好奇心をもってそれに取り組む姿勢がある。
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ロシア企業が日本のシステム開発を請負うこと、ましてや、日本に営業拠点を持たずに新規顧客を開拓することは難しい。日本のソフト開発のかなりの部分が海外(中国など)にアウトソーシングされているのは事実だが、日本企業の目的は「低コスト」であり、技術力ではない。ロシアでオフショア(海外)向けの開発アウトソーシングを請け負っているIT企業は、主に技術力が買われている。先進国に比べればコストが格段に低いとはいえ、中国やインドに比べるとロシアのソフト開発コストは安いとはいえない。そこに日本語がわかる要員が少ないことや日本との直接の行き来が難しいことなどから、なかなか日本企業とのオフショア提携が実現しない。 しかしアカデムゴロドクのIT人材の活用は日本企業にとっても次なる戦略となる得るはずだ。既存システムを短期間に最新技術へ移行したり、西洋風の洒落たデザインのWebサイトを作ったり、国際化対応の製品開発などで、フォルテス社は力を発揮する。日本のIT企業の皆さん、遠いシベリアと敬遠せずに、ぜひ一度、アカデムゴロドクを訪問してみてはいかが。 |
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フォルテス社は2004年6月、サンクトペテルブルクで開催された「第四回ロシア・アウトソーシングとソフトウエア・サミット2004」に参加し、Software Excellence Award 2004において「(ロシアで)最も成長の早いソフトウエア企業」賞に輝いた。前年度に比較して社員数が2.4倍、売上高1.3倍、職場面積6.6倍、Microsoft認証者数2.5倍、パートナー数2倍などの成長が評価されたのだ。2003年に提携したパートナーの中には、日本のニューシステムズテクノロジー社、住友商事のロシア法人「スミトレード社」なども含まれている。 |
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フォルテス社の主力事業は、Linux対応のネットワーク向けアプリケーション開発。ASN.1と通信技術をベースとしたシステム開発も得意だ。携帯電話間の通話の転送制御、航空機の地-空・空中通信、FedExなどの宅配荷物の追跡、変電所や変圧器を制御するための電気・ガス設備、プリンタの印刷制御、着信課金(コレクトコール)、国際電話カード認証などにASN.1のメッセージが使われている。ASN.1は国際標準化が進められていて、あらゆる物がネットワーク化される「ユビキタス」時代に応用が広がると考えられるが、技術情報量が非常に多く、日本では開発者がほとんど育っていない。 Mocrosoft技術チームも強みの一つだ。Microsoft社から直請負でソフトウエアを開発した。Linuxやデータベース、オープン技術など様々な技術を組み合せて短期間、低予算で最先端のアプリケーションを開発するのも多様な技術者がいてこそ可能だ。 |